「調教タイムの見方がよくわからない!」
という競馬ファンに向けて、今回はトラックマンとして毎日、栗東坂路を見ていた鈴木ショータが、そのポイントをお伝えします!
「調教欄を見るのが楽しくなる!」
というファンが増えたら嬉しく思います。
以前、「競馬エイトの調教採点7がよく走る」、という記事を目にしました。
その記事によると、7点の馬は好走率と回収率が優秀だそうです。
ただ、その記事では、
「7点の仕組みがどうなっているのかはわからない」
と書いてあったので、今回は実際に「7点」などの採点を打っていた立場として、
トラックマンがどんな視点で調教を見ているか
まとめてみようと思いました。
ちなみに競馬エイトでは、基本的な点数は6点、それよりも良い場合は7点、さらに良い場合は8点、9点となります。
※競馬エイトの案件記事ではございません(笑)
調教コースによって、担当のトラックマンがいます。
なので今回は、自身が担当していた「栗東坂路の調教の見方」ついて、まとめていきます。
ざっとまとめてみたところ、以下の9つの項目に分けて紹介致します!
追い切る時間帯によって時計の出方が異なります。
きれいな馬場状態で走りたい陣営が多いため、開場一番やハロー(整地)後が最も混み合います。
開場待ちの馬が殺到する栗東坂路
基本的には、馬場の良い時間帯が、最も時計が速くなる傾向にあります。
後半になるほど馬場が荒れ、時計はかかりやすくなります。
開聞ダッシュ厩舎としては、西村、森、大久保厩舎など。
反対に、馬場の荒れた時間帯に追い切りが多いのは、鮫島、宮本、藤岡健、中竹厩舎などです。
乗っている助手さんに聞いてみると「前半と後半だと2秒くらい変わるんじゃないかな」と、こちらが思っている以上に大きな影響があるようです。
時計が出やすい時間帯と、出にくい時間帯を考慮して、評価を上下しています。
※調教時間は、JRAVANなどのサービスで閲覧することができます。
レースでは、「騎乗者の斤量が、1キロ違うと1馬身違う」と、表現されることもありますが、それは調教も同じ。
調教助手さんの体重まではわかりませんが、ジョッキーの体型ならファンの方でも想像しやすいはず。
例えば、松若風馬騎手や、武藤雅騎手なんかは、45㌔ちょっとしかないため、これらの騎手が調教に騎乗した時には、速い時計が出ていても割引が必要、ということです。
ちなみに鈴木ショータは、全騎手の体重も全て調べてデータ化しています(笑)
また、将来の騎手を目指す競馬学校に通っている生徒が騎乗していることもあり、それらは「見習い」として調教欄に掲載しています。
調教映像では、「赤い帽子」を被っているのが「見習い」騎手のため、=軽量騎手 として覚えておくと便利です。
他の騎乗者よりも軽量(40㌔ちょっと)なため、速い時計が出ていても少し割り引きます。
調教で走りやすい馬と走りにくい馬がいます。
僕がトラックマンだった頃に印象的だったのがネロ、モーニン、カオスモス、ブルミラコロ、ビッグアーサーなど、50秒を切るタイムで驚きました。
ちょっと脱線しますが、この傾向からも、ビッグアーサー産駒も、坂路では好時計を出しやすい傾向にあるので、調教で動いていても過大評価しすぎないのがポイントです。例)トウシンマカオ、ビッグシーザー
ビッグアーサーの父でもある、サクラバクシンオーの血を引く馬の好時計も目立っていました。
反対に、調教では地味だったのがシュヴァルグランです。
追い切り当日のなかで、「他馬と比べてどれだけ速いタイムだったかどうか」、という点も大切ですが、「その馬自身にとって好タイムなのかどうか」、もポイントです。
自己ベストを更新する時計をマークしていた場合なども、評価が必要です。
競馬ブックなどでは、その馬の自己ベストの調教タイムが紙面に載っていたりします。
「調教欄に最も力を入れている新聞」
と個人的には感じているので、調教に興味がある方は、競馬ブックをオススメします。
他社の新聞ばかり宣伝していますが、当社の「調教採点表」は、前走との「調教採点差」も掲載しているため、前走時との調教の比較が容易にできるようにしてあります!(笑)
Cウッドコースほどの差はありませんが、坂路でも内と外での差があります。
Cウッドコースでは、通った場所を1~9の数字で表記していますが、坂路ではそれがないため、内めを通った馬の時計は割り引いています。
【参考記事】調教コースの内と外では、いったい何秒タイムが変わるのか!?
ちなみに、栗東坂路タイムを見る時に使える格言がこちら。
「#勝手に競馬格言集」より
「なぜ2Fか」と言うと、最後に2Fは、坂の傾斜が厳しい&直線なので、内と外などの誤魔化しがきかないから、です。
「勝手に競馬格言集」販売開始!!
栗東坂路の直線
毎日栗東の坂路を見続けてきたからこそ、「タイムの本質」に気づき、生まれた格言が、「栗東坂路は2Fだけ見ておけ」というものなのです!
最も重要なのが、この「手応え」かもしれません。
よくある「手応え」の説明を簡単にします。
G仕掛け…ゴール前に少し促す程度
G前追う…ゴール前だけ目一杯に追われる
強め…全体的にやや追われている状態
一杯に追う…実戦さながらに全力疾走
叩き一杯…一杯に追われて最後はバテてしまった感じ
馬にどれだけ余裕があって、そのタイムを出せたのかが重要です。
個人的な見解ですが、全体時計(4F)なら、どの馬も全力疾走すれば、ある程度速い時計が出せると思っています。
一杯に追われていない馬の時計をよくチェックすると、いい穴馬が見つかるかもしれません。
時計はそこまで速くない馬でも、”楽に”走れていた馬を評価してあげた方が良いでしょう。
坂路は全体の距離が4Fで、ラップは1Fごとに計時されます。
そこで重要視しているのが、ラスト2Fのラップ。
「#勝手に競馬格言集」より
簡単に言えば、ラスト2Fが12秒0→13秒0と出る馬はバテていますし、逆に13秒0→12秒0と加速している馬はまだ余力があることがわかります。
こんなラップを細かく見るのはめんどくさい…、という方がほとんどだと思います(笑)。
そこで簡単に見るなら、
4F52秒0→1F13秒0
4F52秒0→1F12秒0
と全体時計は全く同じ場合でも、1Fの時計が速い方が価値が高い、と覚えておいてください。
新馬戦などで人気になって飛ぶパターンは、4F52秒0→1F13秒0 のように、一見速い時計に見えて、最後は失速しているラップの馬であることが多いです。
ちなみにデータオタクの鈴木ショータは、トラックマン時代に、過去数年分の栗東坂路追い切り馬全馬の調教タイムを集計し、加速ラップか減速ラップか、で好走率、回収率が何パーセント変わるのか、まで調べました。(笑)
想像以上に効果があって、調べた甲斐がありましたが、詳しい数値は企業秘密です(笑)
そういったデータも含めて開発したのが、「調教採点」システムです!
併せ馬の場合、先着したか遅れたかが注目されますが、どんなクラスの馬と併せていたかも大切。
格下の馬に遅れたのか、格上の馬に食らいついて遅れてしまったのか。
そこまでチェックしてみると面白いかもしれません。
競馬エイトでは、併せた相手の馬のクラス、も表記してあるので、一目で判断できます!
ここからはかなりマニアックな話になりますが、天候やウッドチップの入れ替えなどの影響で、時計の出方が日によって異なります。
トレセンでは含水率が発表されている
実際に、トラックマンだったときは、毎日チップを踏みしめて感触を確かめていました。
適度に水分を含む状態が最も時計が出やすく、乾燥しぎても雨が降りすぎても時計は遅くなる傾向にあります。
チップの入れ替えは年に2回ほどで、
入れ替えた直後は時計がかかりやすく、そのチップが踏まれて砕けていくにつれ、時計も速くなる傾向にあります。
トレセンに入ることができない今は使えないファクターですが、「トラックマンたちはここまで見ている!」、ということを紹介するために、挙げさせていただきます。
坂路では、目の前で調教が見られるため、馬の息遣いも聞こえてきます。(逆に言うと、他のコースは全てガラス越しで、息遣いまでは聞こえない)
窓もないため、夏はハチの襲撃に遭い、春秋はカメムシが大量発生し、冬は暖房もきかずに極寒という劣悪な環境。
それと引き替えに聞こえてくる馬の「息遣い」は、馬券につながる重要なヒントです。
最もわかりやすいのが ”のどなり”
調教は動いているのに実戦では案外、という馬はこのパターンに該当していることもあります。
喉の状態を確かめるために「内視鏡」というものを身につけている馬などもいます。
そういった兆候がある馬は、たとえ好タイムが出ていても評価はしないようにしていました。
また休み明けの馬なども、呼吸の乱れが感じられたら割り引いていました。
最も印象的だったのが、2017年アイビスサマーダッシュに出走したネロ。
坂路で49.0秒というものすごいタイムを出していましたが、いつものネロと比べて、息遣いが良くなかったのが印象的でした。
これが「数字だけではわからない比較」であり、現場で見ているトラックマンだからこその最大の特権だったと思います。
結局ネロは、3番人気と人気に押されながらも、10着と人気を裏切ってしまいました。
近年は重賞レースなどの調教映像はネットで簡単に見ることができます。
ただそこで確認できないのが、この”音”の情報。
息遣いや、踏み込む蹄の音などは、現場で見ているトラックマンだけの情報だったと、今では思います。
以上が、トラックマン時代に重視していた栗東坂路におけるポイントです。
ベテラントラックマンになると、体の使い方やフットワークなどまで見れていました。
ですが、学生時代も、美術は苦手で数学が得意だった鈴木ショータは、数値化できないファクターよりも、「数字の仕組み」を研究するのに夢中でした(笑)
そうして生まれたのが、格言だったり、
最終的には、「トラックマンとして得た調教のノウハウを、全て数値化しよう!」という、気が遠くなるような思いで開発した「調教採点」システムです。
ただ、通常の競馬新聞の調教欄を見る際は、上記の①~⑨の点に注目してみると、いっそう理解が深まると思いますので、ぜひご活用ください!
「調教採点表」の発売はこちら→1日330円 https://shotasuzuki.net/archives/36151