先日、日本で最初の”外厩施設”と言われている滋賀県信楽にある、信楽牧場へ行ってきました!
代表を務める中内田克二さんは、リバティアイランドなどを管理する中内田充正調教師のお父様でありながら、信楽牧場の経営もし、馬主としてもご活躍されています。
・外厩施設ってどんなところ?
・競馬界に懸ける思い
を聞いてきました!あの名馬たちともご対面!
「外厩」ってどんなところ?
まずはじめに、「外厩」というのは、どういう施設なのでしょうか?
競走馬の休養や育成の施設です
美浦や栗東のトレーニングセンター(以下トレセン)とは違うのでしょうか?
昔は馬も1年中、トレセンにいることが多かったですが、「それでは馬もストレスがたまってしまうのではないか?」と思い、牧場を作ったんです。人間でも、ずっと職場にいたら疲れてしまうでしょう?(笑)
確かにそうですね!職場に布団とかを持ち込めたとしても、何か気が休まらない気がします・・・(笑)
おそらくうち(信楽牧場)が、日本で最初の外厩施設かと思います
そうなんですか!?今や外厩施設は当たり前になりましたが、その走りだったわけですね!いつからやられているのですか?
1971年に開場しました。もう50年は経ちますね
トレセンとの違いは?
トレセンと違うのは、「自由度」だと思います。トレセンでは、何かと決められたルール内で過ごさないといけません
例えばどんなことでしょうか?
飼料などもそうですし、「調教時間」などもですね
僕も記者としてトレセンに勤めていましたが、調教時間は、朝5~9時の間など、時間が決まっていましたね!
自由度が高いことによって、馬にとって最善の対応をすることができるのが、外厩の良いところです
施設見学
信楽牧場の施設を見させてください
馬場は1周800mのコースです
景色がすごく良いですね!あれ?この馬場はダート・・・ですか?
ゴムチップです
ゴムチップって何ですか?!初めて聞きました
ゴムが混ざっているんです。滋賀県は気温が低いので、凍結防止に役立ちます。-6度くらいまでは凍りません
同じ滋賀県の栗東トレセンも、年に数回は雪景色がありました。寒かった滋賀県の思い出がよみがえってきました(笑)なぜゴムチップを導入したのですか?
乗馬クラブでゴムチップが良い、という話を聞いて、導入することにしました
それにしても、深さもありますね!
砂厚は15センチです
競馬場のダートが9センチなので、かなり負荷がかかりますね!
ここがサンシャインパドックです
何を目的にする場所ですか?
日光浴です。馬も、ずーっと馬房の中にいたら疲れてしまうと思って
馬の身になって、施設を作っているんですね!
ホテルでも、ただ泊まるだけで、ずっと部屋にいてもつまらないでしょう?(笑)
そうですね!バーや娯楽室、最近ではジム完備のホテルもありました!中内田さんは、ホテルが出かけて、ひとりカラオケを始めたんですよね!?(笑)
そうそう。だーれにも気をつかわなくていいし、意外と良いもんだなぁと思って(笑)
そういったご自身の「息抜き」の方法を、馬にも生かしているわけですね!
「人間が嫌なことは馬にもするな」。これをうちの牧場では、スタッフにも言い聞かせています
言葉が話せない馬だからこそ、人間が馬の気持ちを考えてあげることが大切ですね
牧場作り
こういった施設は、開場当初からあるのですか?
ちょっとずつ増築していきました。800m馬場は、後から作りました
これだけの土地を開拓するのは大変そうですね
本当大変でしたよ。重機で平らにするだけでは足りず、どうしてもどかせない岩石があったんです
どうしたんですかそれは?
ダイナマイトで爆破しました
え!?どういうことですか?!
もう爆破して、どかすしかなかったんです
牧場作りってそんなこともするんですか!?(笑)
そのために発破技士の資格を取りましたよ
えー!業者に頼むんじゃないんですか!?
当時は全部自分たちでやるしかなかったんです。ただの山だったところから、全て水道管を通したり、石段を積んで平らにならしたりしました
馬作りのために、土地作りから始めるんですか・・・。競馬ゲームをやっても、「発破技士の資格を取る」なんて項目はありませんよ(笑)
今だったら業者に頼んだり、情報もありますが、当時は何もありませんでしたからね
「最初のペンギン」だったわけですね。そしたら、後から牧場を作る人たちにとっては、かなり参考になったのではないですか?
たくさん見に来ましたね。教えられることは全て教えました。「私はこうしたのが失敗だったから、できたらこういうことはせん方がいいよ」など、教えます
その教訓を学んでほしいと!?
そう!そうしたら無駄な失敗をしなくて済むじゃないですか
せっかく苦労して得たことを、全て教えてしまったいいんですか!?しかも後にライバルになる人たちに!
「強い馬を作ろう!」という目的は一緒ですから。今や日本の馬が世界で活躍する姿を見られるのは、嬉しいですよ。決して自分のところの馬でなくても、競馬界のためにちょっとは貢献できたかな、と思って
心のスケールが違いすぎます!本当に ”競馬界の発展” だけを見据えていらっしゃるのが、ホースマンの鏡だと思います!
名馬とご対面
今いる馬を紹介します。ここが馬房です
おー!クリノガウディー!!朝日杯FSではお世話になりました!(笑)
マリアエレーナもいます
おー!マリアー!2022年の夏に一気に覚醒しましたよね!?何か兆候はあったのですか?
体も増えて、成長を感じました。あと夏に強いこの子は(笑)
「夏は牝馬!夏は芦毛!」と言いますが、本当にその通りなんですか!?
みたいです。暑い時にも、他の馬より全然バテないんですよ
現場の人が言うと説得力が増します(笑)
もうすぐ北海道に帰っちゃうけど、アートハウス
おー!エリザベス女王杯では夢を見させていただきました!良い子を産んでね
この子がヨウシタンレイ
中内田さんが所有されている現役馬ですね!まだまだ勝てると思って追いかけてます!
この前は砂を被って全然あかんかったからなぁ。また頑張ってほしいです
ぜひ多くのファンの方に応援していただきたいですね!!
過去にはこんな名馬も
過去にもこうした名馬たちが、ここから羽ばたいていったのですか?
エイシンプレストンやスイープトウショウ、ディープスカイ、最近ではダノンプレミアムですね
スイープトウショウは、やっぱり気性が難しかったのでしょうか?(笑)
本当に我が強かった(笑)牧場からの手紙にも、「気が向かないと一歩も動かなくなる」、と書いてましたが、本当にその通りでした(笑)
動かなくなってしまったときはどうするんですか?
最初はみんな総出で押したりしていたのですが、びくともしないので、結局「待つ」しかないですね(笑)
それだけ我が強くても、しっかりGⅠを勝つのだから大したものですよね!
強い馬は、気も強いことが多いですよ。「私がボスだー!」というくらいの威勢がないと、競走馬の中で頂点には立てません
いかに、走る方向に気持ちを向けるか、が大事ですね
そうです。なので先ほど挙げたように、外厩の「自由度」が大事なのです。調教時間が決まっているトレセンでは、動かなくなってしまっても、「馬が気が向くまで待つ」という選択は、なかなかできませんから
僕も出身大学のスローガンが、「個を強くする大学」でしたが、まさに信楽牧場も、「個」を尊重しているのですね
人も馬も大事に育てていきたい。その思いで52年やってきました
馬作りと人作り
信楽牧場からは、多くのホースマンが巣立っていっていると聞きます
調教師や、厩務員になった人もいますし、総勢80人以上が競馬界に進んでいっています
でも信楽牧場にとっては、せっかく育てた人が、外にいってしまうのは大きなマイナスでないですか?
確かに痛手ですが、それでも競馬界が良くなっていくならそれは素晴らしいことだと思っています
視野と懐が広すぎます!(笑)今日もお見受けしたスタッフが、若い人ばかりですよね。しかも皆さん、本当に楽しそうで
いろいろあってうちに来た人もいますが、基本的には誰でもウェルカムです。「馬が好き」という思いがあれば、みんな仲間だと思っています
中内田さんは、本当に分け隔てなく接してくださり、今日もこうしてお時間をとっていただき、本当に感謝しております
こうした施設があったり、馬には多くの人が携わっている、というこをもっと広めていきたいんです
外厩の情報をもっと広めて
確かに、外厩はブラックボックスと化していて、実際どういうところなのか、知らないファンの方も多いですね
競馬新聞にも載ってないですもんね
いや、それがですね・・・。競馬新聞社に勤めていた時は、読者から「どこの外厩に放牧に行っていたのか、記載してくれ」という声が非常に多かったんですよ
ファンの人も知りたがる情報なんですね
実際、物理的に掲載するこは可能なのですが、そうすると次は絶対「外厩でどれくらいの時計を出していたか、どんな動きだったのか記載してくれ」、という声が出てくるわけです
そうかもしれませんね
そうなると、物理的に今のトラックマンの人数では不可能なのです。そういうわけで、外厩先の掲載は、競馬新聞にはされていないんです
でも載せてほしいですね。それを見たファンの人が、「競馬界にはこういう施設もあるのか」と知ることで、ひょっとしたら将来の就職先になるかもしれない
中内田さんは、本当に”競馬界の発展”への意識が、ホースマンの中でも群を抜いていますね!感動します
新聞社で言えば、鈴木由希子さんは、よくうちに来ていましたよ
えー!競馬エイト時代の大先輩です!由希子さんの背中を見て育ちました!(笑)
「馬のことを勉強したいんです!」と言って、毎月のように来ていました
やはり偉大な方です。僕もトラックマン時代は、信楽牧場からわずか40分のところに住んでいたのに、一度もこの信楽の地に足を運ぶことはありませんでした。由希子さんの情熱には、いつになっても胸を打たれます
最後に
今日はありがとうございました。馬の勉強にもなりましたが、”ホースマン” としてのカッコよさを学ばせていただきました
ぜひ競馬界の良さを、もっと広めてください。若い人にもっと競馬を楽しんでもらいたい。そのためにできることは、積極的にしていきたいです
競馬場でも、いろんな方を招待しておりますよね
今度、大学生の競馬ファンのたちを連れて行く予定です
これまたどういったご縁があったのですのか?
リバティアイランドの応援に、東京競馬場に行ったんですよ。そしたら帰りの電車で、大きなリバティアイランドのぬいぐるみを持った若者グループがいて
最近、ぬいぐるみを持って応援に行く方、見かけますよね!
「リバティアイランド好きなんですか?」と聞いたら、「大好きなんです!応援のために、関西から東京まで応援に来たんです!」って言うもんだから、こういうファンは大事にせななぁ、と思って、名刺をお渡ししたんです
それはびっくりしすぎますよ!(笑)何と言って名刺を渡したのですか?
「そのリバティアイランドの調教師の親父です」って(笑)
その若者たちも、本当にリバティを応援しに来て良かった!と思ったでしょうね(笑)
そんなに競馬が好きなら、今度競馬場に招待してあげよう、と思って
本当に中内田さんのファンサービスは、ファンとしては一生忘れられない大きな思い出になります。確実に、競馬ファンの増加に貢献してらっしゃると思います!
そうやといいんやけどねぇ(笑)
人も馬も育てる信楽牧場!今日学んだことを、自分も後世の競馬界に繋いでいけるよう頑張ります!
編集後記
信楽牧場を見学した後も、特上の近江牛をご馳走してくださったり、他の外厩施設も案内してくださったりと、1日牧場巡りツアーをしていただきました。
当初は見学させていただくだけの予定でしたが、中内田さんのお話を聞いているうちに、「自分も競馬界のためにできることをしよう!」と思い立ち、こうして記事を執筆しようと思いました。それくらい中内田さんは、「競馬界の発展」に尽力されており、周りの競馬ファンの心にも、火をつけているのだと感じました。
この記事を読んだ方が、いっそう競馬に興味を持ったり、競馬界に進もう!と、感じていただけたら幸いです。
人がいて馬がいて、そしてまたそこに人がいる
「メイショウ」の松本好雄オーナーのお言葉ですが、まさに、こうした熱きホースマンとの出会いも、競馬の良いところだと、深く感じました。
最後に、大津SAで一緒にラーメンをすすったのも、大きな思い出です。(笑)
中内田克二様、信楽牧場様、ありがとうございました。